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ロックンロールミシン 加藤香耶

アイロンとアイロン台が同時に壊れた。
おそらく、滅多にないことである。


夫が1人暮らしの部屋から持ってきたアイロンで、15年以上使っているものだった。特に高価なものではない。
いい加減買い替えたくてしかたがなかったのだけれど、壊れていもいないのに捨てるのは忍びない。
かと言って売れるほどのコンディションではない。

 

このたび動かなくなったので、電機店に行ってアイロンを買った。学生時代に学校で使っていたような立派なものは当然買えないけれども、真ん中くらいの値段のを買った。
アイロン台も、表面がはがれてしまったのと、スタンド式が欲しかったので買い替えることにした。
だけどパイプ椅子みたいな脚のものしかなくて、私はどうしてもいつかどこかで見た木製の脚のアイロン台がほしかったので、台は買わずに帰った。
アマゾンで物色して、カバーが気に入らなければ作れば良いと思い、木の脚の台をオーダーした。鼠色の台とパイプみたいな脚のものと、1000円くらいしか違わない。またここから15年以上付き合うのであれば、1000円なんて。

ストライプはそんなに趣味じゃないけれど。カバーを作ろうかなと言う楽しみが増えた。高さも調節できるのが良い。

 

少し前に断捨離をして、CDをほとんど捨てた。学生時代の、もう見ることがないであろうテキストを捨てた。
勢いあまって全捨離をしそうになって「ミシンももういいかな」とぼやいた時に「ミシンは取っておけば」となぜか娘(10)が言った。
ここ数年、ろくに、何か作ってあげたことはない。保育園時代は、服を作ってあげたりしてたかな。

ミシンを踏み出すと、文字通り寝食を忘れてしまって止められなくなってしまう。
そんなに没頭できることって、ほかにあるだろうか?
本当に寝ず食べずになってしまうし死ぬほど好きなはずの音楽もいらなくなる。ラジオも耳に入らない。

 

だからできなくなったともいう。仕事や家事をするためには、寝食を忘れないようコントロールが必要だ。
だけど、今私に必要なのは、没頭できる何か、なのかもしれないな、とも思う。

 

先日某所で、ヨガよりハーブより、実は裁縫歴がいちばん長いんです、と話の流れで告白したら
「それを仕事をしなよ」と言われて、ハッとした。仕事にできるかできないかは別にして、ハッとしたことが重要なのだと思う。
なんでわかるんだろう、という想いだったのだろうか。

 

その日のうちに、ミシンを磨いて、油を差した。ボビンケースもしっかり掃除して。
時折義母や近所の友達にボビン貸して、と言われるのだけれど、私のは職業用ミシンという特殊なものなので、貸せないのである。
「BUNKA」というロゴが、申し訳なさそうにくっついている、JUKIのSUPUR。この先どんな風に付き合っていくのかわからないけれども、つかず離れずいつもそばいにいるミシン。私はなんにでも名前を付けるくせに、ミシンには名前もつけていなかったな。

 

「ロックンロールミシン」という小説がある。
私より10歳年上で、同じファッションスクールの出身の男性の作品だった。

ふうん、と思いながら読んだ。
今でも、なんとなく胸の奥の方にこびりついている。あれは洋裁小説だ。

 

21年目にして、ミシンに名前をつけよう。

 

加藤香耶